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【ごはんセット大佐】ep.2

左様でございますか
ああ、お通しといったら枝豆か余り物を煮物にした物と決まっておる
そうでごさいますか。不勉強で誠に身の縮む思いです。要するに、どんな状況下にあっても、まずは枝豆をお出しすれば良いという認識でよろしいでしょうか
よろしい。その通りじゃ。宴のときは前菜に必ず枝豆を出すとよい。物分かりの良い少佐は出世するぞ
有難きお言葉。それではお次の品は揚げ物でございますね。本日は揚げ出し豆腐とポテトフライをご用意しました
ほほう。お前、それ本気で言ってるんじゃあなかろうな
はっ。本気でございます
お前は本気かもしれないが、わしにとっては間違いじゃ。いくら情熱を注いだからといって、相手の気持ちを考えていない努力は時に無駄や迷惑になることをよく考えると良い。そんなんじゃから少佐の佐の字を左と間違えるんじゃよ
はっ。今の言葉、心から感動致しました。一生涯大切にします
ほほう。嬉しいことを言ってくれるのう。しかし、そのことでもし、お前の大事な人生が悪い方向に転んだとしてもわしは責任を取れないから、あしからずじゃぞ。大佐という割には大したことないのじゃからな
ご謙遜なさらなくて結構でございます。それより、揚げ出し豆腐とポテトが冷めてしまいます
おお、そうじゃった。そのことなんじゃが、この屋敷には揚げ物以外の食べ物は無いのか
豆腐がございます
豆腐は揚げる物じゃ。揚げない豆腐などこの世に一つも存在しない
左様でございますか。不勉強でございました。では、じゃがいもは如何でしょう
じゃがいもは揚げる用じゃ。揚げる専用の野菜じゃ

左様でしたか。でしたら、少々早いですが、メインディッシュに移らせて頂きたく存じます
そうじゃな。多少飛んでしまったが、ひとまずメインが楽しみじゃ。もう用意は出来ておるのじゃな
もちろんでございます。お待たせしました。こちらが、メインディッシュの鶏の唐揚げでございます
もうよい。わしゃ怒った。おこじゃ。そんなにわしの胃をもたれさせたいか。そこまでというのなら食べるが、わしの胃をもたれさせたところでわしの有難い話を聞けなくなってもそれはお前の責任じゃからな
申し訳ございません。大佐がごはんセットはおろか、食事にありつけない原因の全ては私にあります。しかし、せめてシェフが腕によりをかけて作ったデザートだけでもご賞味頂きたく存じます
甘物と言うのじゃ。誠に不勉強じゃな。デザートとは干からびた土地のことじゃ
デザートは甘物でございますが
ううむ。要検討じゃな。しかしそうじゃ、甘い物は別腹と言うからのう。瞼も重くなってきたことじゃ。今日はそれで我慢するとしよう
承知しました。少々お待ちください

 

(続く)

【さよならアテンション】

あえて何も言わない 素ぶり

見て見ぬふり 実験台 日
静かに しー で絵筆 搔き消す
レンジ 開始 試験管 覗き込む じー
その二分三十秒の間に凝縮される生の隙間
押しすぎて剥き出しになった ボタン
叩きすぎて普通になった 基盤 暇
有無を言わせず育まれてきた叡智
すでにそこにあったレッテル貼りの応酬
自作自演
結論づいていることを相談と銘打って報告する小芝居
ただ黙って見て考えてるふりをして帰ってからすることを何度もリピート
知っているということを知らないということ
論理的なものすべてに興味のある脳で話す動物と感情的なものだいたいに興味を示すを骨で話す動物の取っ組み合いにならないが決着のつかないいがみ合い
鳩 鳩 鳩
数えながらひた走り 靴の上にぽと
がくん 
なんでもそのことに繋げようとする
突っ込み待ち
百八つ目の角を曲がると真ん丸の月がこっちを見ていた
そういう系 的な感じ 談笑の中の一端
得るもの無し 
複雑さを拒む
理解不能なものを理解不能なままにせずに記憶から切り離す
そして笑む
ピーターパンの球をくたばるまで落ちて来ないように強く蹴る
四方八方から柔らかいかなづちで打たれてやがて丸くなった
丸い人たちが支える丸い丸
ある
エステティシャンがいつの間にか部屋から出ていった
あれから戻ってはこなかった
あり合わせの荷物で旅に出る
服を脱ぎ捨てて湯に浸かる瞬間をひたすら思い浮かべる
晴れた空の下 芝生の上に寝転がってぼんやりと見ている流れゆく白い綿
僕は空になった
石ころを腸に含んで食べ物を粉砕しながら空白の地図を埋めていく
読みましたの印をつけて横に受け流す
鈍感 ぶいぶい
惑星の形をしたチョコレート
チョコレートの形をしたチョコレート
その上で目印となる大きな木の根元に集まって影の中で身内の話を始める大人たち
理屈を持たない子供たち
無意識的に定めた絶対主義の崩壊
ダブルユー メッセージ 三十秒
電磁波を放つ箱に顔を近づけて様子を見る
無害にかこつけエコノミー寸前
首を鳴らして慣らして次への支度をする
手でアルファベットのエックスの形を作りながら垂直に飛ぶ
曇った眼鏡を外す
根幹はワイルドでありながら表面はスーパーソフト
屁理屈 格好つけ 印象操作 外圧
キーボードをテンキーの所でのこぎりで切り取ったらコンパクトになった
羅列している人は自らが羅列されていることを信じようとしない
和室の物入れの奥に仕舞われて忘れ去られた竹刀
表向きでは謙虚に見せつつも心の片隅では特別な存在でありたがる
チン!
食べおえる
もし布団や枕やベッドに口があったら
ズィーズィーズィー

 
(終)

【ごはんセット大佐】ep.1

ごはんセット大佐! ごはんセットのご用意ができました!

ほほう。いつになく早いな。お前にしては上出来じゃ。前回の反省を活かしたというわけじゃな
はっ。左様でございます
何だって以前のお前は、用意が遅すぎてわしが飯を食べ終わって、風呂に入って、出てきて床に着く間際に持ってきたわけじゃからな。あのことは向こう十年決して忘れんぞ
かたじけない所存です。しかし、あの失態は忘れて頂きたく存じます
おっと、こりゃあ悪かった! つい、過去に囚われて昔の出来事をあたかも昨日のことかのようにねちねちといつまでも繰り返して他人を見下したいだけの浅はかでつまらない人間に成り下がるところじゃった
大佐は立派なお方です。私もこれからは心を入れ替えて、二十四時間三百六十五日、大佐第一の精神で臨んで参ります
ほほう。良きこと良きこと。しかしな。せっかく用意してもらって何なんじゃが、わしはまだ何も腹に入れておらん
空腹の状態ではご不満でしょうか
そういう問題じゃない。お主は漬け物と味噌汁だけでご飯一杯いけと言うのか。それは普通の人には不可能じゃ。決して出来ることじゃあない。それをわしに期待するなど、お前はとんだ不届き者じゃ
はっ。失礼致しました。大佐であったら何とかなろうかとつい、先走ってしまいました。申し訳ございません
許そう。正直でよろしい。だが、二度目は無いと心得よ
はっ。それでは、お通しのご用意を致します
よろしい。できれば前菜と言って欲しかったが
お待たせ致しました。前菜のカニクリームコロッケでございます
待てい待てい!
こちらはお嫌いですか
そういう問題じゃない! 前菜といったら枝豆かサラダと決まっておる! いきなりコロッケなど食べたら胃がもたれて大変なことになる
左様でございましたか。つい、大佐ならいけるかと
やかましいのじゃ! 大佐じゃからといって何でもいけると思うな。これじゃから少佐はいつまで経っても少佐なんじゃよ
はっ。今の言葉、心に沁みました。これからは中佐を目指して頑張ります
よろしい。その心意気じゃ。それにしても、なぜカニクリームを出そうと思ったのじゃ。前菜の菜は野菜の菜じゃぞ。わしはお主の思考回路の構造が不思議でならん
ご説明しましょう。先ほどご指摘がございましたが、私は、あくまでお通しという前提でメニューを組んでいた次第でして
ならんならん。仮にお通しだったとしてもそれはおかしい

 

(続く)

【ふつゆれうね】

ふつつか ゆず ううう

ふぁいと ゆみや うん

ふう ゆああ うらら

ふらわー ゆるゆる うたたね

ふぁんたじー ゆめ うちゅう

ふー ゆらゆら うたう

ふらり ゆらり うつる

ふたり ゆれる うそ

ふわふわ ゆたんぽ うさぎ

ふふふ ゆ! うふふ

ふぐ ゆき うた

ふゆ ゆう うふ

ふ ゆ う

ふうふう ゆんゆん うねうね
 
(終)

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【怪人ニ面相】

でっ、出た!! 怪人ニ面相だ!!

なっ、何ですかこの仮面の男!! 怪人百面相なら知ってますが
ばかやろう。あんなものは空想だ。実際にいるのは、この写真に写ってる怪人ニ面相なんだよ。顔を自由自在に変えられる、とても厄介な相手だ。それを利用して、全国のスーパーやコンビニで万引きを繰り返している
名前の割にはみみっちいですね。ニ面というのは。つまり、二つの顔しかないってことですか?
鋭い。そういうこった。俺もあんまり詳しくないんだが
ってことはですよ。元の顔を引いたら一つしか化けられないじゃないですか! えっ? というか、元の顔も含まれるんですか。それとも別々ですか?
そりゃあ、ルールから言ったら元の顔は含まれるだろう
ルール?
要するに変身出来るのは一つだけだ
なぁんだ。余裕じゃないですか。二つ覚えてどっちかってことでしょう?
どうやら奴を甘く見ているようだな。痛い目を見ないように気をつけろ。いいか。一つだろうと全く別人の顔に成れるってのは、捕まえる方は相当厄介だぞ。指名手配の顔写真は二つ用意なくちゃならない。聞き込み捜査の時も、もちろん二つ用意しなくちゃならない。関わる人々は二つの顔を覚えなくちゃならない
えっ。でもそれって、背丈とか服装も変わるんですか? それだったら確かに厄介ですね
いいや、奴が変えられるのは、顔だけだ。自分の顔を一瞬で全くの別人に変えることが出来る
なぁんだ。余裕じゃないですか。服が変わらないなら、その服を目印に追えば良いじゃないですか
いいや。奴は、着替える
えっ
情報によると、一日に一度着替える
えっと。朝起きて寝巻きから着替えるのは含まれませんよね? 含まれるなら、普通の人と変わらないですし。含まれずに、それとは別にもう一度着替えるとしたら、ある意味変装とも取れるわけで、なかなかに厄介ですね
いや、含まれる
えっ。なぁんだ。余裕じゃないですか。着替えを持ち歩いてるわけじゃないんでしょう。だったら、僕だって怪人二面相ですよ。はは
こらっ、口を慎め! 油断は禁物だ。それだけだったらまだいい。更に厄介なのが、毎日全く違う匂いを振りまいているということだ
匂い!?
しっ、声が大きい
ちょっと待ってください。それって、例えば、一日目はカレーの匂い、二日目はシトラスレモンの匂い、三日目は新車の匂いという風にですか。匂いはオーラとも言いますから、例え顔や服装が同じでも全くの別人に思えるかもしれませんね
いいや、違う。奴は必ずミント系の匂いを放っている。例えば、月曜日はミント。火曜日はペパーミント。水曜日はクールミントという風に
あぁ、なんだ! 簡単じゃないですか。ミントなら大差ないですよ。鼻につく匂いですから一発で分かりますよ
そう、鼻につく匂いだから一発で分かるのだ
認めちゃうんですか。そういえば、さっきからミントの匂いがしますよねぇ
はっはっはっはっ
んっ! どうしたんですか!? 藤臣さん、気でも狂ったんですか?
ふぁっはっはっはっ、ばれちゃあしょうがない! おれの正体は、怪人二面相だ!!
うっ、そういえば! 声が全く別人だと思った!!
そう、おれは怪人、二面相、だ!!
うわぁぁああああ
……なーんてね
もうー、やめてくださいよー、藤臣さーん!

 
(終)

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【仕事や家族のために趣味を捨てた空っぽな人間の掃き溜め】

そういえば、はがけのブラッキ復活したらしいですよ。はがけのブラッキ。あっ、そうなの? 秋葉原に行ったらだいたいはがけだなぁ。そう。あそこのブラッキ無くなっちゃったのよ。ブラッキ目当てで行ってたのに。復活したんだ。そう、復活しましたって書いてありました。それ俺のおかげだ。だって、お客様のアンケートに書いといたもん。ブラッキ無くなっちゃったんですかって。ブラッキ目当てで行ってたのでもう行きませんって。無くなったときは五分ぐらい悩んだね。いやぁどうしようかって。五分だよ。俺が五分悩んだんだよ。ブラッキってポケモンじゃないの。はははは。あと最近行ってないけど、とつぜんステーキだっけ。ああ、とつぜんステーキ。あそこ、人気だよね。いくらくらいなんですか。千円? 二千円くらいで腹一杯食べれんの。そこのハンバーグが美味しいんだ。ソースが美味い。ステーキって言ってんのにハンバーグが美味い。そうそう。ソースは売ってないんだよ。注文するとき後ろめたいんだよ。ステーキっつってんのにハンバーグかよ、みたいな。そうそう、ありきたりな質問なんだけど、趣味とかあんの? へぇ。映画とか全然見てないなー。魔女と美獣か。この間昼ご飯食べてたら隣のテーブルの人が熱く語ってたな。どんなタイプの映画が好きなの。うん。うん。うん。へぇ。映画見ないなぁ。俺サーフィンが趣味なんだけど。結婚する前は一人で行ってたんだけど、今は家族がいるから。一緒に連れていっても俺しかやらなくて、嫁も子供も見てるだけになっちゃうからな。自然と遠のいちゃうよね。そっちは? へぇ。電車か。乗る方? 撮る方? 楽しそうだね。二人は週末そんな感じなの? へぇ。趣味は良いよ。外に出てリフレッシュして。メリハリが大事だよ。それにしても、趣味無くなったなぁ。家族がいるとどうしてもね。まぁ、家族は家族で良いところあるんだけどね。ちなみに彼女いるの? ああ、そうなんだ。貯金も大事だよ。貰った分貰っただけ使ってたら、後で色々使うことあるから。ご祝儀とかね。結婚ラッシュみたいのもあるから。ああ、ちょっとアドバイス的なね。やっぱりねぇ。何が言いたいかっていうと、コミュニケーションって大事だよねってこと。うん。話長くなっちゃったな。あっ、明日歓迎会だっけ。何時からだっけ。十九時か。いつもはどのくらいに終わってるの? 六時か六時半ぐらい? じゃあ、明日は多分残業できるね。やっぱり、コミュニケーションは大事だよ。忘れてた。報告書書かなきゃ。あそうだ。決算もやらなきゃなぁ。

 
(終)

【脳細胞の死ぬ音】

がオん。
みシミシみし。
ゼいこゼイこぜイコ。
改造された機械兵達が背中に空いた穴から一遍に流れ込む。
お腹に突き刺さった胡瓜の汁がぼたぼたと音を立てながら急須の中に落ち、何も知らない半纏を着た女が眠気眼で茶を入れている。
正面に聳え立つ分厚い鉄壁がグらグラと揺れている感覚がする。
あたりめの駄菓子の黒い部分には何も書かれておらず、その瞬間に答えを察する。
向かいに立っている女性の肩甲骨の膨らんだ部分から赤い風船がはみ出していて、呼吸と一緒にコわコワと鳴きながら徐々に空気を孕んだ姿を現し始める。
興味本位で蝋燭を食べ始めた赤子を余所に、もう一人は鏡の中で吐き出している。
虹の架かった空をマじナイの類いと捉え、閃光がヨぎり、死を察する。
ある角度から見ると円筒形に見える直方体。
扇風機と喋る小柄な老人がネっチョリと音を出しながらあたりめの駄菓子を吐き出す。
鏡に映った黒い部分にあたり。
神社の跡地に生命が宿り、埋めた木の下には骨の欠片と赤色のゴム。
途端に虹は消え、空は黒く染まり、ゴあゴアという音と共に転倒する銀色の何か。
まジナイを唱える女の発する蒸気は赤子の顔に掛かり、隣に座った中年女性の腹から突き出た緑色の影。
壊れかけた道路の端に延々と、点々と火の付いた蝋燭が並べられている。
同時に手術室のランプが点り、小洒落た見た目の機械兵が入る。
掃除をしながら独り言ポつり。
便益で満たされた部屋を見渡す。
部屋の角には割れた陶器の一部と使用済みのマスクと烏賊の足。
呼吸をするうち、ふと背中に違和感を感じる。
道を辿りながらふと後ろを振り返るとブぃーんと言う奇声を発する老人が一人。
折れた箒に唄う唄が眠気を誘うマじなイと化す。
扇風機曰く、万物の裏側には常に死が張り付いている。
ベきベキ折れ始め神社の木が、ある一瞬だけビルに見える。
弁当箱に残った緑色の汁。
暗がりで必死に何かに改造を施す小柄な体。
微生物を裏返し、茶と書き殴る。
啜り泣く声が漏れ聞こえる。
可愛い紋様の急須を見つけて燥ぐ、マスクを外そうとしない少女。
細胞の声が聞こえると言って、住処を写した外科医がメスを使って硬い物を切る練習をしている。
物音のしない物置の中から、鼻をつくような異臭がする。
遠くの方で自転車を漕いでいる男の荒い息遣い。
凸凹の地面には溶け切った蝋燭とガラスの破片が散乱している。
物と物とが勢いよくぶつかる鈍い音。
自転車のひしゃげる音と女の悲鳴が交差して、巨大な壁面に反響した。
倒れるぞ!
 
(終)