ミき下の【スミつき】

Overturn Of Encephalon

【吊り天井紙芝居】

 

 ちょろりと動いて消えていく尻尾。
 普通天井は端から端まではまっているものだが、ぎりぎり目視できる程度に間が空いていた。
 その隙間に一匹のやもりが隠れる。
 ちょうどその時、逆サイドの隙間から紙芝居が落ちてくる。
 全編ではなく一枚のページ。
 金色に輝く村のような絵。
 落ちる一瞬にそれを読み取れた。
 だが、床に溜まっていた墨汁が紙に染み込み、紙は床に溜まっていた墨汁を吸い込み、すぐに黒い長方形となり沈んだ。
 落ちてくる絵は毎回違って、平べったい馬の絵だったり、赤いぐにゃぐにゃの模様だったり他にも色々あった。
 だが、そんなことが何度も何日も繰り返され、もう慣れてしまった。
 何にも期待しないことにしたんだ。
 振り返ってみたところで意味などないのだから。
 意味があったとしても正解などなく、仮に正解があったとしても明かされることなどないのだから、考えるだけ無駄なのだ。
 天井の上には何人かの人がいるらしい。
 らしいと言っても考えた上でなのだが、たまに人の歩くような振動がするので、同じように住んでいるんだろう。
 ドアの向こうから声がする。
 声のするドアの近くにはボタンが一つ。
 興味本位で近づいて押し込んでみた。
 じりりりり。
 ベルのような音が鳴り響き、頭上の天井が勢いよく落ちてきた。
 このままでは潰されてしまう。
 そんな思考が働いた次の瞬間、足元が蠢き出した。
 紙芝居のページたちだ。
 沢山の紙が床から飛び出して、ぱらんぱらんと音を立てながら天井の方に舞い上がっていく。
 呆気に取られながらそれを見つめる。
 紙たちはそのまま重たい天井を押し上げていく。
 どれもこれも見覚えのあるページだった。
 沢山の目玉が踊っている光景、スポンジ状の壁に首を突っ込む奇怪な形の動物、使い道の分からない機械、青白い顔をした無表情の女、平べったい馬、赤いぐにゃぐにゃの模様、そして、金色に輝く村……。
 ごごごごごごご。
 音は凄まじいものだった。
 紙という軽い材質からはとても想像できない。
 怪力、馬鹿力、そんな言葉が浮かんだ。
 そんな力の影響を受けたのか、いつしか床の墨汁も干上がっていた。
 元の位置に天井が戻った。
 辺りに転がっているものは一本のペンと無造作にばら撒かれた白い紙。
 自分以外誰も居ない部屋。
 これでしばらく窓の外の警官の数を数えなくて済む。
 今日もぐっすり寝れそうだ。
 消灯しようとして、スイッチを探そうと周りに目をやって目が止まった。
 部屋の隅にわずかな隙間があった。

(終)