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【or lie】ep.1


 白い敷居で囲われた小部屋の正面にどこにでもあるような木の机を挟んで、不細工な女が座っていた。
 一見派手さがあるわけでもなく、落ち着いた雰囲気と愛嬌を感じるが、不細工な女だった。

 どう?
 と女はパソコンを打つ手を止めて少し顔を上げて問いかける。
 おれはか細い声で用意してあった台本を読んだ。机上のシートの「趣味・性格」の欄には小さな字が三行ほど並べてあるだけであとの七つの欄は全くの白紙だ。

 女はふふっと表情をほころばせる。今まで出会った人物のタイプに当てはめているのかもしれない。にやけた顔も不細工だ。
 その時、おれの脳裏に女の脳天を柄の長い鉄のハンマーで勢いよく叩き割る映像が流れた。

 バギィンッ!
 銃声のような冷たい音が部屋全体を震わし短くこだまする。
 頭蓋骨の感触を覚えているハンマー。そいつを携えた右手を降ろすおれ。降ろした速度と同じ速さでゆっくりと顔を上げる。

 女はパソコンに向き合いキーボードというものに両手を走らせていた。
 後でメールを送っておきます。
 微笑みながら話すその女の顔は、どの角度から見ても言わずもがなである。

 はて、女は今何といったか。音として認識したものの、なぜだか意味は入ってこない。
 あとでめーるをおくっておきます。
 脳内の変換キーを連打する。
 ようやく意味を理解したが、声が耳に入った段階で反射的に頷いていたのでよしとしよう。

 ふいに後ろの開け放しにされた部屋の奥の窓を風が叩いているのが気になった。今日は風が強いのだ。
 ここへ辿り着くまでずっと肩をすくめ、手を袖の中に引っ込めていた。たしか道路上にはビニール袋が飛ばされていた。
 人や犬も飛ばされていたか。いや、それはない。ユーフォーなどが飛来していたならば話は別だが。

 女が何か話しかけてきている。
 その顔が凄く、凄く面白い。狙っているのでないのだから本物だ。
 いくつかの紙をこちらに向けアピールしている。説明してるのか。大事だ。重要な話だ。
 ギャグか。嘘だ。
 聞け。聞かねばならん。馬鹿。
 なのに。

 風の音が言っている。
 え?
 風が喋っている。おれに向かって、真実を。いや。
 おれは今。何を?
 生き延びていたのか。何が?
 クソ。

 正気を保っていられる気がしなかった。
 既に片鱗を見せていた。違う。
 ここにいてはならない。奴を。
 どうにかしないと。このままだと。

 

(続く)

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