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ミき下の【スミつき】

脳の溶ける文章

【急突なモヤ】ep.2

 これまで、ジーパンと水溜りを分けて考えていたが、実際は濡れそぼったジーパンがただそこにあっただけである。

 準備は整った。俺は心の中でほくそ笑む。
 だが、決して気取られてはならない。表情には決して出さない。
 誤解しないで欲しいのは、誰に見られている訳でもないし、誰に見せている訳でもないということ。
 俺は、まぁ、練習か。
 それ以上は言えない。
 その理由ももちろん言えない。
 これ以上言及しないで頂きたい。
 もし俺の話を遮ってまで質問をやめないという人がいるならば、俺は一人荷物をまとめてこの場を去るだろう。
 それぐらい繊細なことなのである。
 ここまでに関してこれ以上はない。続きを進める。
 俺はびしょびしょのそれを前に魂の第一声を上げる。
「は? 何これ?」
 うむ、まずまずのところ。それから続いてこうだ。
「うぇっ、濡れてる!」
 更にこう続けることになる。
「ズボン? えっ? ジーンズ? たぶん。えっ? どういうこと? なに? えっ?」
 ひとしきり事情を飲み込んだ後、これだけでは終わらない。ここからが最大の見せ場である。
「濡れたジーパンがここにあるってことは、誰かが火事で燃えた服を急いで水ぶっかけて消してそれを乾かしてるのかなぁ」
 狙ってはいけない。あくまで自然に。意識すると崩れる。
 一度崩れたら取り返すのは極めて難しい。挑戦より継続を優先させるのだ。
「ここコインランドリーじゃないのに」
 もはや意味が分からない。崩れていると受け取る人もいることだろう。
 だがそれも承知の上、俺は俺の定めた方針に乗っ取って、以下のように続ける。
「コインランドリーだったらワンコインだけど、ここだったらタダか。なるほど、俺も家事に巻き込まれて服が燃えて急いで水ぶっかけたらすぐここへ乾かしに来よう」
 これはあくまで一例である。そのときの体調や物音一つで大きく変わってくる。
 もっと付け加える場合だってある。発展させていくと更にアブストラクトになっていく。
 その一端はこうである。
「乾かすのか。だったら日差しの強いところ。砂漠の方がいいか。いや、逆にこの蛍光灯の明かりが服にとっては心地いいかもな。肌焼けもしないし。服焼けか? あっ、もう焼けてるのか。でもこう、濡れそぼった状態で考えるとやっぱ砂漠、いやここ、間を取って草原だな。草原は風もあるし、日の光もあるし、完璧だ。よし決めた! 草原!」

 

(続く)

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