ミき下の【スミつき】

Overturn Of Encephalon

【お疲れ様ですの業】ep.2

 もしかしたら。
 そういう。
 冗談だったのかもしれない。
 要するに。
 自虐と。
 皮肉の。
 入り混じった非常に高度な冗談。
 気付いて。
 やれなくて。
 心底申し訳ないと思う。
 だが。
 そうだとしたら。
 分かりづらい。
 朝。
 一発目にしては。
 重く。
 複雑で。
 素直に。
 笑えない。
 こんな。
 冗談は。
 生まれて初めて吹っ掛けられた。
 否。
 よく思い出すと。
 初めてではないかもしれない。
 聞き流してはいたが。
 思い返せば。
 何度となく掛けられてきた。
 しつこいほど。
 そう。
 もしかすると。
 遅効性の。
 笑いを。
 狙ってきたのだと。
 考えることも。
 できる。
 何度も。
 同じことを。
 繰り返すことで。
 後々に。
 爆発的な。
 笑いを。
 生み出す。
 そういうやり方なのかもしれない。
 だが。
 そんな。
 回りくどい。
 やり方を。
 して。
 何の。
 意味がある。
 野暮だ。
 分かりっこない。
 聞くか。
 本当の。
 理由は。
 本人しか知らない。
 だが。
 冗談の意味を聞く。
 それは。
 苦痛じゃないか。
 自分が。
 言った。
 洒落の意味を改めて聞かれるほど。
 そんな。
 恥ずかしいことはなかなかない。
 その場合。
 むしろ。
 私の。
 方が。
 野暮というものだ。
 ならば
 もう一つ考えるに。
 私は。
 単純に。
 喧嘩を売られたのか。
 まさか。
 彼が。
 私に。
 喧嘩を売るなんて。
 あり得ない。
 彼と私は。
 決して。
 仲が悪い訳ではない。
 ないのだが。
 しかし。
 可能性としては。
 ゼロ。
 ではない。
 それなら。
 苛々していたのか。
 だから。
 私に。
 お疲れ様です。
 などと。
 理由があるはずだ。
 彼を苛々させた。
 理由。
 何も。
 ないのに。
 苛つくはずはない。
 例えば。
 犬の糞を踏んだ。
 とか。
 好きなパンが売り切れだった。
 とか。
 理由はいくらでも考えられる。
 だが。
 本当の理由は。
 本人にしか分からない。
 聞きたい。
 聞きたいが。
 時機を逃してしまっている。
 これも。
 保留か。
 ならば。
 何故。
 朝一番で。
 お疲れ様です。
 という場違いな文句を発したのか。
 そうか。
 もしかすると。
 ひょっとすると。
 理由などない。
 ただ。
 彼は。
 寝ぼけていたのではあるまいか。
 きっと。
 お疲れ様です。
 ではなく。
 おはようございます。
 と言いたかったのではあるまいか。
 そうか。
 朝だから。
 多少寝ぼけることもあろう。
 寝ぼけていなくとも。
 何かの間違いでそう言ったのだ。
 そうだ。
 そうに違いない。
 なんだ。
 何が。
 お疲れ様です。
 だ。
 疲れているのは完全にそっちの方じゃないか。
 私は顔を上げた。
「食生活と睡眠が大事ですよ」
 そう声を掛けた。
 すると。
 彼は。
 無理に笑顔を作ってぎこちなく相槌を打った。
 だめだ。
 この人は完全に疲れている。
 私も疲れている。

(終)