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【食べる男】ep.2

 特に何も塗っていないプレーンな食パンを半分に折りたたんでまるでサンドイッチのような素振りでかじっている男。
 トンポーローを食べたことがないのにトンポーローまんをひとかじりして、これトンポーローより美味いと声を大にして呟く、あたかも本家のネタを大して知らないくせにモノマネの方を見て本家の万倍面白いと恥じらいもなく周りに言いふらしているような男。
 新発売の天然水のなし味を二、三口飲んだ後に少し間を置いてから、「これは、あり」と言う男。
 しゃきもく、こくごく、くるつる、といわせながら、小エビの乗ったサラダと野菜ジュースとペペロンチーノを食べる男。
 ラーメンや揚げ物やアルコールといった刺激物を避けて、それ以外の物を食べる男。
 飲み物の代わりにプレーンヨーグルトを食べる男。
 おやつのイカフライのマヨネーズ味の方ではなく、唐辛子味の方のイカフライを食べる男。
 若者に人気のいわゆる家系ラーメン屋の隣の、そのラーメン屋よりももっと昔からありそうなひっそりと佇んでいるわりには混雑しているつけ麺屋の、その隣の店で食べる男。
 横断歩道を渡りながら、エレベーターを待ちながら、街中の至る所でガムを噛む男。
 コンビニエンスストアで一袋の千切りキャベツと納豆を三パック食べて立ち去る男。
 もう一食食べる男。
 歩きながら飲み、飲みながら歩く男。
 記念すべき飲み会の前に、集合場所の近くで渋い表情を浮かべながらビッグサイズのマシュマロ一袋とメガサイズのミネラルウォーターを飲み終える男。
 軽く足を組みながら千切りキャベツをつまみつつ、グレープフルーツジュースを飲み、納豆を頬張る男。
 周囲にドキッとした目つきで見られながら、富士山を模した通常の三倍の量の盛りそばを食べる男。
 商品名を省略して呼んだことが引き金となって、何度も何度も聞き返されたあげく、やっとのことでスペシャルでビッグなフランクフルトにありつき、水を得た魚のようでありながら死んだ魚のような目で食べる男。
 千切りキャベツをご飯、ドレッシングをふりかけとして食べる男。
 本格フランス料理店でも老舗小料理屋でもメキシコ人のやっているタコス屋台でもないところで食べる男。
 ビニールで束ねられたもずく三パックを横目に大きめのメロンパンを食べる男。
 カット野菜の付着した粘り気のある箸でチリトマト味のカップ麺をすする男。
 べとついたポリエチレン製バッグに入った紙容器の中の香ばしい香りのする水分を蛇腹式円筒器具を使って減少させる男。
 寝起きの状態でバターピーナッツの小袋と牛乳一パックを飲む男。
 ブラックコーヒーとミントタブレットとミントガムをチャージする男。
 ブリトーや菓子パン類かと思いきや、おしゃぶり昆布を咀嚼している男。
 どこかでなにかを食べる男。

(終)

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