ミき下の【スミつき】

Overturn Of Encephalon

【ボンバーヘッド・ステーション】

「あの、地面に接触してますよ」
「あっ、すみません。わざわざかたじけないです」
「いえいえ、たやすいことです」
「こんな親切な人、十日ぶりに出会いました」
「やめてくださいよ」
「それにしても一向に列車が来ませんねぇ」
「言えてますね。かれこれ長い針が十周はしてます」
「してますしてます。もしかして、事故が巻き起こったんでしょうか」
「いいえ。一理ないです。その場合、スピーカーから鼻抜け声の説明がありそうなのに、それが無いですから」
「私がトイレに行っていた隙に鼻抜け声の可能性を模索していたのですが」
「その可能性は却下です。私は長時間ここにいますが、聞いていませんから」
「そうですか。では、今しばらくこのスペースで会話のキャッチボールをしましょう」
「そればいいアイデアと思います。ところで、先ほどポケットから落下したあの代物について知りたいのですが」
「ああ、これはボンバーヘッド・ステーションです」
「え」
ボンバーヘッド・ステーションをご存知ない? ご存命の方なら高い確率でご存知なんですがねぇ」
「ああ、ご存知です。あれですよね。よくやってますよね」
「こういう時に役に立つんですよ」
「そうだったんですか」
「そうなんです。まず、風呂敷を外して、これのここをくいっとひねります」
「ほお、くいっと」
「そしたら、ここに『パスワードを入力してください』と出てくるので、パスワードを入力します」
「パスワード」
「ここから先はもう分かりますよね」
「はい。あれですよね。こう、けっこう便利な」
「そうです。やっぱり、こういう時に持ってて良かったなぁ。買って良かったなぁって思うんですよ」
「わたしもそうです」
「やはりあなたは分かっていらっしゃる。便利なものだと分かっていたから、私が落としたボンバーヘッド・ステーションを迅速に届けて下さったんですね」
「要約するとそういうことです」
「課長でしょう? それかあなた部長でしょう?」
「気配りは出来ると後輩から言われます」
「ずばり、図星でしょう。私の中で係長という選択肢は無くなりました」
「まぁ、これのおかげみたいなところもありますよ」
ボンバーヘッド・ステーションですか?」
「それです」
「これは人類史上最大とは言わないでも、千本の指に入る素晴らしい発明だと思うのですが、どう思いますか」
「最高だと思います」
「例えばどんな時に使っていますか」
「やっぱり、寝る前とかですかね」
「何と。寝る前に使ったら眠れなくなりませんか」
「慣れですよ。最近は犬にも使ってます」
「犬を飼われてるのですか。何匹ですか」
「一匹です。あなたは何匹ですか」
「〇匹です」
「何か別の生き物は」
「私にはこれがありますから」
「確かに。言えてますね。言えてることばっかり言いますね」
「それもこの効果なんですよ」
「そうでしたか」
「ぶっちゃけ言うと違うんですけどね」
「顔を見た時からそう思ってましたよ。そんなことより、誰がこんなもの作ったんでしょうか」
「さあ、退屈だったんでしょう」
「退屈で見た目も冴えない、使い道もない、その割に高価なこんな道具を誰もが欲しがるその理由は」
「難しい話はやめましょう」
「そうでした。難しかったんでした。では、私は帰りますので」
「おや、奇遇ですね。私の最寄りもここなんですよ」

 
(終)