ミき下の【スミつき】

Overturn Of Encephalon

【シックスティーンよ永遠に】

まるで囁くようなラップミュージックが右の耳から左の耳へ抜けてゆく。

心地よい風が窓から入り込んで、紙のそばに放ってあった数学のプリントが濃い桜色の絨毯の上に落ちる。
一瞬注意はそちらの方に惹かれたが、またすぐに絵の続きを始めた。
暫くして、外の大通りを走るトラックの走行音が耳について、窓を閉めた。
それからどれくらいの時間が経っただろう。
気がつくと部屋が薄暗くなっていた。
知らぬふりをして、ペンから持ち替えた十六色のコピックを走らせる。
だが、十分もしないうちに陽が落ちて部屋は濃青の空気に包まれた。
右側を向くと、机の予備収納の上で光っている赤色が目に沁みた。
『16』と表示されたそれは、ラジカセに挿入されたCDの曲数を表す数字だった。
とりあえずラジカセの電源を切った。
確認するまでもなく、フェードアウトするように消えるデジタル文字。
暫くは使わないと考えて、コンセントも抜こうと思った。
ラジカセの裏から伸びる黒いコードを意識したとき、余計に暗さが際立った。
コンセントの前に部屋を明るくしようと思った。
椅子から降りて机を離れた。
反対の窓辺の壁には、シャッターを下ろすスイッチがついている。
そこまで向かおうとしたとき、何かを踏んでくしゃっと音がした。
そちらに目を向けると、A3サイズ二つ折りのプリントだった。
その紙の端には『数学II』と書かれている。
拾って、ドアの近くに置かれていた平べったい通学バッグの上にそっと投げる。
たまたま電気のスイッチのそばだったので、序でに部屋の電気を点けた。
一気に明るくなる室内。
その足で丁度向かい側のシャッターボタンの方へ行き、三つあるうちの下矢印のボタンを押す。
うぃぃんがらがらと機械的な音を発しながら、徐々に固い幕が降りてくる。
その幕は、完全に締まり切り、外で強い風が吹くと、かたっとか、ばしゃっとか色々な音を発する。
椅子に戻って、机に備え付けられた蛍光灯をのスイッチを入れる。
グリーンのマットの上に置かれたA3サイズよりも大きな紙が輝いて見える。
その絵の続きをやろうとして、鉛筆を手にして、もう描くものがないことに気づいた。
そのとき、下の階から聞き慣れた声がした。
適当な返事を返して、机のライトを消し、椅子から立ち上がる。
そのとき、ラジカセの黒いコードが目に入り、思い出す。
コンセントを引っこ抜いて、部屋の去り際に後ろを振り返ると、部屋全体が視界に入る。
そこには、変なキャラクターが沢山描かれたカレンダーの裏紙。
部屋の壁には、意味不明な文言が沢山貼ってある。
消灯する。
少し廊下を進み、二段ずつ軽快なリズムを刻みながら、階段を降りていく。
食欲を刺激する、焼き魚と野菜炒めの匂い。

(終)

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