ミき下の【スミつき】

Overturn Of Encephalon

【冬の陽炎】

 雨足は強まっていた。

 
 冷たい小屋の中で俺の手は頭上の観葉植物の枝に巻きつき、足は地に根を張っていた。

 

 移り変わる景色はひたすらに既視感と呼応している。

 

 かうかうかう、こたこたこた、といった文明の弾ける音は完全に地響きで、そのぼりゅーむの向こう側では誰かが助けを呼んでいた。

 
 三十秒してから、掲示板に書かれた数字は十六から零へと切り替わった。

 

 それと同時に戸の錠は開けられた、何もせずとも独りでに。

 
 雨は止んで、雲の切れ間からかすかに日が射し込んでいた。

 

 屋根、柵、柱、電車、人間、建物、目に入るもの全てが、全ての影が全く同じ形をしていた。

 
 あぁ、僕は呟いた。

 
 男性は誘われるように、灰色の硬い硬い地面に降り立った。

 

 地表には何十億という人間の寄る辺なさが覆っていた。

 
 窒息してその場に倒れ込む私。

 
 どァがあった。

 
 色も形も感覚も匂いも味もない、ただひたすらに寒い部屋で、触れるまでもなくやはり身の前に聳えるどァ、は勝手に開いた。

 
 男性が実体のない肉体を起き上がらせて、初めて来るその空間を見回すと、そこにはいつも決まって、雨を、小屋を、景色を、文明を、ぼりゅーむを、三十秒を、戸の錠を、雲を、影を、僕を、硬い硬い地面を、ありったけの人間そのものを、分け合ってむさぼり食っている、コネコとアカンボウの姿が遊んでいた。

 
(終)

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